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「管理監督者」と残業代―労使双方が理解すべき法的ポイントとは?

弁護士 米澤 弘朗

弁護士 米澤 弘朗

奈良弁護士会

この記事の執筆者:弁護士 米澤 弘朗

徳島県出身。大阪市立大学経済学部、大阪大学高等司法研究科を卒業し、わかくさ法律事務所に入所。奈良弁護士会子どもの権利委員会委員長や奈良青年会議所理事長などを務める。

現代の労働環境において、残業代に関するトラブルは依然として後を絶ちません。中でも「管理監督者」に該当するかどうかという論点は、企業・労働者のどちらにとっても重要な判断ポイントです。

「管理職だから残業代は出ない」という説明の下で長時間労働を強いられたものの、実は法的に管理監督者に該当しなかった――こうしたケースは決して少なくありません。逆に企業側にとっても、「正当な管理職に残業代を支払う必要はない」と考えていたところ、認定が不十分で法律上の「管理監督者」には該当しないと判断されてしまうことがあります。

本コラムでは、管理監督者の法的な定義や判定基準、深夜労働に関する例外の扱いなど、企業・労働者の双方が押さえておくべきポイントを整理し、トラブル予防と円滑な労務管理のための実践的な視点を提供します。

管理監督者とは

労働基準法第41条は、監督若しくは管理の地位にある者については、第32条から第40条までの規定(労働時間・休憩・休日に関する規定)を適用しない旨を規定しています。

つまり、「管理監督者」に該当する従業員については、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払い義務が免除されることがあります。
ただし、この適用が認められるのはあくまで例外。安易な運用は、企業にとって法的リスクとなり得ます。

「管理監督者」の実態要件とは

肩書きや役職名だけでは足りません。裁判例や厚生労働省の通達をもとに、管理監督者と認められるには以下のような要素が総合的に判断されます。

(1)経営に関与する程度

  • 経営方針に関する判断・提案が可能である
  • 予算、人事、人材育成などに関する決定権がある

(2)勤務時間に関する裁量

  • 出退勤が自己の裁量に委ねられている

(3)待遇面の優遇

  • 基本給や役職手当が一般従業員と比べて明確に高額

企業側のリスクと対策

リスク① 「名ばかり管理職」

実態として一般社員と変わらない勤務実態である場合、「名ばかり管理職」とされ、残業代を遡って支払わなければならなくなる可能性があります。
→ 時効期間(3年)内の残業代請求に加え、付加金(制裁金)の支払いが命じられることもあります。

リスク② 社内モラル・離職率の悪化

名ばかり管理職の存在は、従業員の士気低下や早期退職の要因にもなりかねません。管理監督者を置く場合には、以下の対応策を検討することが有用です。

  • 「管理監督者」とする場合は、就業規則や労働条件通知書に明示し、実態も整えること
  • 勤務実態の定期的な確認(出退勤記録の確認含む)
  • 必要に応じて、待遇の見直しや業務権限の明確化を図る

労働者側が注意すべきこと

役職があるからといって、自動的に残業代の対象外になるわけではありません。
自分の働き方が以下に当てはまる場合、「管理監督者」に該当しない可能性があります。

  • 出勤・退勤の時間を厳格に管理されている
  • 部下の評価や採用に関与していない
  • 業務内容は現場の作業が中心
  • 役職手当が月数万円程度で、残業代を上回っていない

このような場合には、未払い残業代を請求できる可能性があります。過去の裁判でも、企業の説明に反して管理監督者とは認められなかったケースが多数存在します。

深夜割増の例外

ここで重要な点として、管理監督者であっても、深夜労働に対する割増賃金の支払い義務は免除されないという事実があります。

深夜割増とは

午後10時から午前5時の間に働いた場合、通常の賃金に25%以上の割増賃金が必要です(労基法第37条4項)。
この規定は、労働時間・休日の制限を受けない管理監督者であっても例外なく適用されるとされています。
つまり、管理職であっても深夜帯に働いた場合は、その時間分について割増賃金を支払う必要があります。

【企業側への注意点】

  • タイムカードや勤怠システムで深夜勤務の有無を記録しておく
  • 管理職についても、深夜勤務に関する割増分の支払いを行っているか再確認する

【労働者側への注意点】

管理職で残業代は出ていないが、深夜勤務をしている場合には、割増分が支払われているか確認する

まとめ

「管理監督者」としての扱いは、企業の裁量だけで決まるものではなく、法律の要件を満たしているかどうかが重要です。
企業が適切な制度設計と運用を行うことで、法的リスクの軽減と働きやすい職場環境づくりが可能になります。労働者もまた、自身の労働実態を正しく把握し、必要に応じて専門家に相談することが重要です。
当事務所では、企業・労働者双方の立場から、管理監督者制度や残業代トラブルに関するサポートを提供しています
実態の見直しや是正、未払い賃金の請求、労務管理体制の整備まで幅広く対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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