
弁護士 芳林 貴裕
奈良弁護士会
この記事の執筆者:弁護士 芳林 貴裕
奈良県出身。東大寺学園高校卒。京都大学法学部、同法科大学院を修了し、栃木県内の法律事務所にて企業法務案件等に携わった後、地元・奈良に戻る。事業承継や事業再生、廃業支援などの実務に幅広く従事している。
借金に苦しみ、「もうどうすることもできない」と絶望している方は、決して一人ではありません。日々、多くの方が借金問題に直面し、その解決策を模索しています。その中でも、個人破産(自己破産)は、借金問題の解決手段として広く知られています。しかし、「自己破産」と聞くと、漠然とした不安や恐怖を感じる方も少なくないでしょう。
このコラムでは、個人破産とは何か、そのメリットやデメリット、そして手続きの流れについて、弁護士の視点から分かりやすく解説します。
目次
個人破産とは?
個人破産とは、借金の返済が不可能になったことを裁判所に認めてもらい、原則として、全ての借金の支払い義務を免除してもらうための法的手続きです(※公租公課は免責されないなど例外があります)。
破産法に基づき、裁判所が借金の返済不能状態(支払不能)を認定することで手続きが開始されます。そして、最終的に「免責許可決定」を受けることで、借金は法的に免除されます。
この手続きは、破産者の生活再建を目的としており、借金に追われる生活から抜け出し、新たなスタートを切るための重要な制度です。
個人破産のメリットとデメリット
個人破産には、非常に大きなメリットと、無視できないデメリットがあります。これらの点を正確に理解することが、最適な選択をする上で不可欠です。
メリット
借金の支払い義務が免除される
これが個人破産の最大のメリットです。消費者金融、銀行、クレジットカード会社など、全ての借金が原則として免除されます(※公租公課は免責されないなど例外があります)。長年苦しんできた借金生活から解放され、経済的な再生を図ることができます。
債権者からの督促が止まる
弁護士が介入すると、債権者に対し受任通知を送付します。通常、これにより、債権者は直接本人に連絡や取り立てをすることがなくなります。精神的な負担が大幅に軽減されます。
一定の財産は手元に残せる
「自己破産すると全ての財産を失う」という誤解がありますが、生活に必要な最低限の財産(現金、預貯金など)は自由財産(99万円)の範囲内で手元に残すことができます。
デメリット
信用情報機関に事故情報が登録される
いわゆる「ブラックリスト」に載る状態です。これにより、一定期間は新たな借り入れ、クレジットカードの作成、ローンの利用などができなくなります。
財産が処分される可能性がある
高価な不動産や自動車、一定額以上の預貯金などは、破産手続きの中で換価され、債権者への配当に充てられることがあります。
官報に氏名や住所が掲載される
官報は、国が発行する広報紙のようなものです。一般の人が見ることはほとんどありませんが、この掲載により、知人や会社に破産が知られる可能性はゼロではありません。
一定の職業に就けなくなる期間がある
破産手続き開始決定から免責許可決定が確定するまでの間、弁護士や公認会計士、警備員などの特定の職業に就くことができません。これを資格制限と呼びます。免責が確定すれば、この制限は解除されます。
個人破産の手続きの流れ
個人破産の手続きは、専門的な知識を必要とするため、弁護士に依頼することが一般的です。ここでは、弁護士に依頼した場合の一般的な流れを説明します。
ステップ1:弁護士への相談と依頼
まずは弁護士に借金の状況を正直に話し、相談します。この際、借金の金額、債権者の数、収入や財産の状況などを詳しく伝えることが重要です。弁護士は、個人破産が最適な解決策であるか判断した上で、正式に依頼を受けます。
ステップ2:受任通知の送付
弁護士が依頼を受けると、各債権者に対して受任通知を送付します。この時点で、通常、債権者からの督促はストップします。
ステップ3:必要書類の収集と申立書の作成
破産手続きに必要な書類(住民票、源泉徴収票、預金通帳のコピーなど)を収集し、弁護士が破産申立書を作成します。この申立書には、借金の状況や財産の詳細などを記載します。
ステップ4:裁判所への破産申立て
作成した申立書を裁判所に提出し、正式に破産を申し立てます。裁判所は、提出された書類を審査し、破産手続開始決定を下します。
ステップ5:破産管財人による調査(管財事件の場合)
財産が一定以上ある場合や、免責不許可事由(浪費やギャンブルなど)が疑われる場合、裁判所は破産管財人を選任します。破産管財人は、財産の調査・換価や、免責を許可するかどうかの判断材料を裁判所に報告します。
他方で、裁判所から破産管財人が選任されない場合は、破産手続が開始すると同時に、ステップ6(免責手続)に移行します。
ステップ6:免責許可決定
全ての調査が完了し、問題がなければ、裁判所から免責許可決定が出されます。この決定が確定することで、借金の支払い義務が法的に免除されます。
個人破産は誰でもできる?免責不許可事由とは
個人破産は、誰もが無条件でできるわけではありません。法律上、免責を許可すべきではないとされる事由(免責不許可事由)が存在します。
- 浪費やギャンブルによる多額の借金
- 特定の債権者のみに返済を行う行為(偏頗弁済)
- 財産を隠したり、意図的に価値を減らしたりする行為
- 虚偽の申告や、裁判所の調査に協力しない行為
これらの事由があると、原則として免責は認められません。しかし、裁判所の裁量により、免責が許可されるケースも少なくありません。これを裁量免責と呼びます。
最後に
個人破産は、決して恥ずかしいことではありません。借金問題から逃げずに、法的な手続きを通じて人生を再スタートさせるための賢明な選択です。
もし、借金に苦しみ、どうしていいか分からなくなっているなら、まずは一人で悩まずに、弁護士に相談してください。あなたの状況に合わせた最適な解決策を一緒に見つけ出すお手伝いをします。